「秀くんも同じこと言ってたよ、泰輝はいい奴だから絶対幸せにしてくれるよって」

「そうなの?あいつ……いい格好しやがって」

そう言いながら心なしか嬉しそうにも見えたのは、多分私の気のせいではない。

「俺は那月ちゃんに、柚歌泣かせたら許さないって釘刺されたよ。柚歌がドリンクバー取りに行った時」

「え、そうなの?」

「うん、何なら柚歌に出会う前から言われてたけど。私の大事な友達紹介するけど絶対泣かさないでね!って」

那月がちょっと強気な口調で泰輝に詰め寄る姿が、手に取るように想像できる。

「まぁ……このあいだ早速泣かせちゃったんだけどさ」

少しばつが悪そうに言った後で、泰輝は私の目の前に突然小指を差し出した。

「約束。俺、もう柚歌の事、絶対泣かせないから」

約束するのは好きではなかった。
絶対なんて無い、私はそれを分かっていたのだ。
けれどその無邪気な笑顔にはどうにも敵わなくて、ついつい小指を絡ませた。

私たちの間に、穏やかな沈黙が流れた。
強い風はぼうぼうと音を立てて私たちを煽る。