強制と書かれた文末に、指先が返信を躊躇う。
" 秀くん"は那月の彼氏で、この辺りでは一番頭が良い、東砂原(ひがしさわら)高校の三年生だ。
まだ面識は無いけれど、昼休みのたびに那月のノロケ話を聞いている甲斐あって、彼の事はもうある程度は把握している。

そういえば……
那月が恋愛に縁のない私を哀れんで

「いい人を紹介してあげるから」

と言っていたのはつい先日の事だった。
私はそれをてっきり冗談か何かだと思って適当な返事をしたまま、もうすっかり忘れていたのだ。

人見知りの私から言わせれば、初対面の男の子達とカラオケなんて気が乗らないのが正直な所だ。
けれど断るにはそれ相応の理由が見つからず、かと言って取るに足らない嘘をついて那月に嫌われる事だけは何よりも避けたい。

あれこれ考えながら文字を打ったり消したりしているうちに電車は自宅の最寄駅に限りなく近づき、既にスピードを緩め始めていた。
何故かそれに急かされたような気になった私は、たった二文字の承認の意向を勢い任せに送信していた。