ひとしきり泣いてようやく落ち着きを取り戻した頃、泰輝くんは一度ズボンのポケットに押し込んだ握り拳を、私の前に差し出した。

「柚歌ちゃん、手出して?」

「えっ?うん……?」

恐る恐る右手を出すと、泰輝くんはその上で握り拳をそっと解いた。手のひらの真ん中に、固くひんやりとした何かが落とされる。

「わぁ、綺麗」

私の手のひらに乗っていたのは、ピンク色をした小さな貝殻だった。それは自然が作り出したとは思えない程に端整な形をしていて、光を反射する度、うっすら纏ったオーロラが柔らかな輝きを放っている。

「知ってる?貝殻ってさ、人の心を癒す力があるんだって。だから俺、柚歌ちゃんが来る前に、一番綺麗なやつ探したんだ」

内心子ども騙しみたいな話だと思った。けれどそれはまるで幼い頃、擦りむいた膝にかけられたおまじないのように、私の手のひらの上で確かに私の痛みを癒し始めていた。

泰輝くんが大きな身体でこんな小さな貝殻を探してくれていたのを想像したら、なんだか少し可笑しくて、とてつもなく嬉しくて、止まったばかりの涙がまた溢れ出しそうになった。

「柚歌ちゃんが辛いと俺も辛いし、柚歌ちゃんが痛いと俺も痛いよ。だからもう、自分を傷つけないで。ね?」

温かくて、真っ直ぐで、透き通った泰輝くんの瞳を、もう二度と曇らせたくないと思った。この気持ちを忘れないよう、私は何度も何度も頷いた。