「柚歌ちゃんはさ、きっと俺に知られたくなかったんだろうけど……俺は良かったって思ってる」

「えっ?」

私は驚いて泰輝くんを見た。柔らかく笑ったその瞳には、一点の曇りもない。

「だって柚歌ちゃん、もし俺が知らないままだったら、一人で傷ついて、一人で色んな事抱えて、ずっと一人で辛い思いしてたんでしょ?俺はその方が、よっぽど嫌だ」

鼻の奥がツンとして、急に苦しくなった。
このまま何かに溺れていくような気がして、目一杯息を吸い込んだ。
私の中にマリンノートが優しく吹き込んだ時、砂浜が滲んだ。ぼんやり揺れて見える波は、キラキラと光っている。
人前で泣かないと決めたのは、どれくらい前の事だっただろう。

「辛かったよね」

大きな手が躊躇いながら私の前髪に優しく触れた時、突然の夕立のように、涙がぽろぽろ溢れ出た。
ゴツゴツとした手が私の頭をいつまでも撫でるせいで、それはもう止まらなかった。
その手を、その温もりを、私は長い間ずっと求めていた。