「思ってないよ、それは本当に思ってない」

私が否定すると、泰輝くんは何度か頷いてから小さくため息をついて、もうそれ以上は聞いてこなかった。

"なぜそんな事をするのか"
そう聞かれなくて心底ホッとした。その答えは言葉にしようとすれば途端に輪郭を失って、何日かけても上手く話せそうにない。

「柚歌ちゃんに初めて会った時さ……なんかちょっと、不思議な子だなって思ったんだよね」

泰輝くんがゆっくりと噛み締めるように、一言一言を紡ぎだす。

「見た目はピアスが沢山ついててちょっと恐そうなのに、何故か目だけはずっと怯えてるみたいでさ、それが無理して強がってるように見えて。俺と秀に全然心開いてないのも分かったし、この子は何か抱えてる子なのかなぁって。何となくだけど、そんな気がしてた」

その言葉のひとつさえも聞き漏らしたくなくて、相槌を打つ事すら憚られた。

「それが何かは分からなかったけど、あの日から俺、柚歌ちゃんの事はなんかほっとけないなってそう思ってた。だから最近は俺に少しずつ心を開いてくれてるのが分かってきて、実は結構嬉しかったんだよ」

私について知りすぎた事を、彼は後悔しているだろうか。
もしそうだとしてもそれを口に出すような人でない事は、もう充分に分かっていた。