「……もしもし?」

手も足も声も、私の全てがかすかに震えていた。

「もしもし柚歌ちゃん?久しぶり。元気にしてた?」

泰輝くんの声も、ぎこちなく揺れていた。そしてその向こう側に波のざわめきを聞いた時、私は彼の苦悩を悟って、思わずその場に座り込んだ。

「元気だよ。泰輝くんは?」

「あのさ、柚歌ちゃん。今から会えないかな?」

私の言葉尻も聞かぬまま、泰輝くんは言った。腰を下ろしたばかりのアスファルトは焼けるように熱い。今まで感じた事のない衝動が、私を駆り立てた。

「今ちょうど駅の近くにいるから、すぐ行けると思う。いつもの所?」

「うん、待ってるから」

慌てて店内に戻ると、那月は私が口を開くより先に、事態を察したような顔で頷いた。 

「ごめん!私行かなきゃ」

「うん。私の事は気にしないでいいから。ほら、早く行って!」

「本当にごめんね!また連絡する!」

テーブルの上に千円札を一枚残して、私は再び飛び出した。