「それで、今に至る訳ね」

那月は少し照れたように頷いて、アイスティーを一気に飲み干してから続けた。

「何があったかは知らないし、どうするかは柚歌の勝手だけどさ、自分の気持ちには正直になった方がいいよ。そうしないと柚歌、いつかきっと後悔すると思う」

彼女はそう言い残すと、氷だけが溶け残ったコップを手に席を立った。

いつもまっすぐな那月の言葉が説得力を増して、今日は一段と突き刺さる。
一人テーブルに残っていた私は持て余した手で携帯電話を操作し、アドレス帳を開いた。サ行の一番上段に表示される彼に一体何を言えば、私たちはまた笑いあえるのだろう。

救いようがない程幼稚な言い訳をいくつか思いついた後で、そっと携帯電話を閉じた。
私は那月にはなれないのだと、改めて思い知った。

那月も泰輝くんも、何故だか私よりずっと大人だ。
勉強も、運動も、恋も。
いつも、何しをしても、何処にいても。私は不思議なくらいに人よりダメなのだ。

"もっと頑張りなさい"

幼い頃に繰り返された母の言葉が、頭の中で自動再生する。
ザワザワとしたファミレス特有の騒がしさは、惨めな気持ちに拍車をかけた。


「柚歌もドリンクバー取りに行く?」

突然那月に声を掛けられ、反射的に笑顔を作ったその時、テーブルの上の携帯電話が揺れた。
そこに久しぶりに表示された"斎藤泰輝"の文字を見た時、あまりのタイミングの良さに、私は何かしら操作を誤って彼に電話してしまったのではないかと不安になった。
テーブルの上で縦横無尽に振動し続けるのをしばらく見ていると、那月に「早く」と急かされて、私はそれを手に外へ飛び出した。