「柚歌ー!いつまで寝てるの!」

母の大きな声が階下から響く。

「起きてる〜……」

意識こそはっきりしているものの、私はベッドから抜け出せずにいた。

夏休みに入ったというのに、気持ちは重く沈んだままだ。
特に楽しみな予定がある訳でもなく、アルバイトや部活だってない。唯一あるのは数学の補習と、まだ手付かずの課題くらいだ。

あの日以来、泰輝くんからの連絡は一度もない。
自分から連絡する勇気も無かったし、何より、一番知られたくない事を知られた後で"私"という存在についてこれ以上何を話せば良いのか、それがさっぱり分からなかった。
私という人間はあの日を境に、見事なまでに空っぽになっていた。

ハーフパンツをめくって、何本も走る自分の弱さに触れてみる。まだ赤い傷痕の事は思い出せてもすっかり塞がって白く盛り上がったそれはいつからそこにあったのか、そのきっかけが何だったのかすら、既に曖昧だ。

"葉山さんてミステリアスよね、何考えてるのか全然分からないもの"

中学三年生の時、担任の先生からそう言われた事をふと思い出した。
手を差し伸べられる事もなく、突然見捨てられたような気がした。
一体いつ誰が、私を分かろうとしてくれたのだろう。そう思いながら、決して口には出さなかった。私は確かあの時も、泣きたい癖に笑っていた。

表立って人を責めるくらいなら全て自分のせいにしてしまう方が余程楽だという事を、あの時の私は既に知っていたのだ。

自らを傷つける事で罰し、傷つくことで許した。傷が治れば癒される、そんな気がした。

正しくない手段なのはずっと前から分かっていた。けれど私にとってはそれが、自分を保っている為の合理的かつ唯一の方法だったのだ。