「うん、美味い!」

泰輝くんが親指を立てたのを見て、つい口元が緩んだ。その後も二つ三つと口に運ぶ度に美味い美味いと言っているのを、大袈裟だなぁと思いながら眺めていると、彼は星形のをひとつ私の口に放り込んだ。

「ね、本当に美味いでしょ」

まるで自分が作ったかのように言うのが、なんだか可笑しかった。
けれどそんな事はどうでもよくて、クッキーを咀嚼しながら、上がってしまった心拍数を落ち着けながら、私はただただ頷いた。


「泰輝くんはさ、やっぱり県外の大学受験するの?」

もうすぐやってくる夏休みの話題になった時、泰輝くんが夏休みの予定をダイビングショップのアルバイトと受験勉強だと答えたところで、私は一番気になっていた事を尋ねてみた。

「そうだね、一応いくつか候補はあるけど……どのみち県外に行く事になるかな。どうして?」

彼は鞄の中から飲みかけのお茶を取り出して一気に飲み干した後、不思議そうな顔をしてこちらを向いた。

「那月がね、秀くんが県外に行っちゃうって寂しがってたから」

「あぁ、那月ちゃんか。うちの学校の生徒は、だいたい県外に行くからね」

「そっか」

自分で聞いておきながら、それしか返事ができなかった。私はなんの保証も無いまま、心のどこかで彼の「行かない」の一言を期待していたのだ。