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初めて一人で歩く堤防沿いは、少しだけ心細く感じた。泰輝くんは、もう既に来ているだろうか。
目的の場所へと足を進めながら、左肩に掛けた鞄を少しだけ開けてみた。
借りたCDと教科書が少し。
そして、昨夜焼いたクッキーが割れていない事を確かめる。

昨夜の夕食の後、私は久しぶりにキッチンに立った。
泰輝くんに何かCDのお礼がしたくて、クッキーを焼く事を思いついたのだ。

途中、付き合ってもいないのに手作りはやり過ぎだろうかと弱気になったり、母の邪魔が入ったりしながらも

"後悔するくらいなら当たって砕けなよ!"

という那月の言葉を思い出し、なんとか自分を奮い立たせた。

丸、三角、四角、星……何種類かあるクッキーの中にほんのいくつかだけハート型を忍ばせたのは、私にしては随分勇気を振り絞ったと、自分を褒めてあげたいくらいだ。


行き止まりの少し手前、堤防の上に座る人影を見つけて立ち止まる。
そうであって欲しいと思いながら、そうでなかったらどうしようと恐る恐る近づくと、人影はこちらに向かって手を振りながら、私の名前を呼んだ。