放課後、電車の窓に流れゆく景色を眺めている時も、昼休みの那月の言葉はまだ頭の中にこびり付いていた。

"モテない訳が無いもん!"

"県外の大学とか行っちゃうんじゃない?"


泰輝くんが他の女の子をあの砂浜に連れていく事や、遠く離れた大学に進学し二度と会えなくなる事を想像すると、ため息が止まらない。毎日見ている街並みさえ、なんだか急に哀愁を帯びたようだ。



今までに経験したこともないようなキリキリとした痛みが胸を締め付け、あのくしゃっとした笑顔や優しい眼差し、そして穏やかに打ち寄せる波にも似た彼の香りが、どうしようもなく恋しくなった。
 
電車を降りる頃には居ても立ってもいられない程の切なさに飲み込まれ、私でない何かが、私をすっかり支配していた。
どうやら恋愛という物は、想像以上に恐ろしい一面を持っているらしい。

気が付いた時には駅のホームで、携帯電話の発信ボタンを押していた。
電話の呼び出し音は、何故だかいつも私を緊張させる。
繰り返される呼び出し音を聞きながら、心の中には「出なければいいのに」と、何とも身勝手な矛盾を孕んでいた。




「もしもし、柚歌ちゃん?どうした?」

無機質な呼び出し音と入れ替わるように聞こえてきたのは、泰輝くんの優しい声。
私の中に渦巻いていた痛みや不安は、瞬く間に吸い取られていった。