メールを送ろうと慌てて鞄から携帯電話を引っ張り出したその時、背後で私を呼ぶ声がした。振り返ると、泰輝くんがキョトンとした顔で小さく手を挙げている。

「ごめん、待たせた?柚歌ちゃんまだ来ないと思って、コンビニ行ってた」

「ううん、私も今来たところ!ごめんね、連絡するの、すっかり忘れてた」

心の準備をする時間は充分にあったはずなのに、レジ袋をブラブラと見せながら小走りで近づいてきた泰輝くんを直視する事はやっぱり出来なかった。私は靴紐が不思議な結び方をされた、彼のお洒落なスニーカーばかりを眺めていた。

「そっか!それならよかった。あ、そうそう……」

彼は背負っていたカバンを下ろしガサゴソと漁ると

「はい、これ!返すのはいつでもいいから」

そう言って、少しシワになった黄色い袋を差し出した。

私はお礼を言って、すぐにそれを鞄にしまった。
思った以上にあっという間だったCDの受け渡しにほっとしたのも束の間、今度は物足りなさに似た余裕すら感じ始めたから、不思議なものだ。

「柚歌ちゃん、この後予定ある?」

私が鞄を肩にかけ直した時、泰輝くんは腕時計に目をやりながらそう尋ねた。

「ううん、特には」

「じゃあさ、ちょっとだけ俺に付き合ってくれない?」

「え?いいけど……」

発言の意図が読めずに首を傾げると、彼は何も答えないまま、ニッと笑った。

「よし、じゃあ行くよ!」

私の背中をぽんっと叩くと、泰輝くんはそのまま歩き出した。私は訳もわからないままに、ひとまず彼の後ろに続く事にした。