名前も知らない生き物たち。
毒々しいくらいに鮮やかな魚の、生き生きとした姿。
潮に揉まれる海の草花。
一糸乱れぬ命の群れ。
そこに存在する全てのものを尊く感じた。
終わりのないこの世界の先にはきっと、もっと美しいものたちが息を潜めている。
海は生きていた。
大きく、深く、美しく。
輝く命をいくつも孕んで。
今、海は生きている。
ヒロさんが、突然海面を指差した。
見上げるとそこには、天から差し込んだ光のカーテンがキラキラと揺れていた。
クリアピンクのダイビングマスクの向こうに、那月の大きな瞳が輝く。
"本物はもっと綺麗だよ"
あの日の言葉を思い出す。
かつて私をときめかせたその言葉に、嘘はなかった。