「じゃあ二人とも、もう一度呼吸の練習からしてみよう。潜ってみて大丈夫そうなら、オーケーのサインを出して。そうしたらあとはもう、俺に任せてくれれば良いからね」

深呼吸して、海中に顔をつける。恐怖心に負けないよう、呼吸にただただ集中する。
先程までの出来事が、次々と頭に浮かんで来る。

那月の言葉、ヒロさんの涙、ユキさんの手の温かさ、皆の激励。
そして最後に浮かんだのは、一番眩しいあの笑顔。

気がついた時には、ヒロさんが目の前でオーケーサインを出していた。
いつの間にか水中で、上手く呼吸ができている。
私は同じようにオーケーサインを出して、それに答えた。
隣を見てみると那月も、目一杯腕を伸ばしてオーケーの合図。

ヒロさんが頷いて、私たちの機材を操作する。
瞬く間に海底に沈んだ身体は、もう、恐れを感じてはいなかった。

初めて目にしたその景色は、世界で一番美しい色をしていたからだ。