「昔、出会ったばっかりの頃、泰輝が海の中の写真を見せてくれた事があって。本物はもっと綺麗だから私にも見せてあげたいって……それで、私が高校卒業したら一緒にダイビングしようねって、約束してたんです。それは叶わなかったけど……やっぱり泰輝の見ていた景色を私も見てみたいって、今になってようやくまた思えたから」

「私、嬉しかったよ。柚歌が誘ってくれて。私は泰輝くんの代わりにはなれないけど……泰輝くんにも負けないくらい、柚歌の事大好きだから。
だから私、簡単に諦めて欲しくない。私も柚歌と一緒に見たいよ、泰輝くんの見てた景色」

那月がはっきりとした口調でそう言いながらも必死に涙を堪えているのに気がついた時、視界が滲んだ。
ところが何故か真っ先に泣き出したのは、ヒロさんだった。
驚きのあまり、溢れかけていた私たちの涙は、瞬く間に引っ込んで笑いに変わった。
ユキさんはヒロさんに「なんでアンタが泣くの!」と的確なツッコミを入れた後、お店から持参していたお湯で、私たちに温かいお茶を淹れてくれた。

ヒロさんが泣いたせいで、近くにいたダイバー達が何人か集まってきて、ちょっとした騒ぎになった。
何年も何年も毎週のように此処を訪れているせいで、今ではもう皆友達なんだと、ヒロさんはまだ涙の乾かない顔で笑った。