「柚歌、昨日はごめんねー!」
いつもより一本遅い電車で登校した私を、那月はやっぱり教室で待ち構えていた。
ニヤニヤと笑う彼女の表情からは、謝罪の気持ちなど全くないことが読み取れる。
「さぞかし大事な用事だったんでしょうね?」
出来る限り皮肉たっぷりに尋ねると、彼女は意味ありげな含み笑いを浮かべながら手帳を取り出し、そこに挟んであった長細いシートを私に手渡した。
「え……ねぇ、まさか用事ってこれ!?ちょっと、信じらんない!」
手渡されたものは、昨日の日付が入った秀くんと那月のプリクラだった。
想像していた以上にくだらない"用事"につい那月を睨みつけてしまった。けれど彼女はそんなのお構いなしといった様子で、お腹を抱えて大袈裟なくらいに笑っている。
「ごめんごめん!秀くんが、ちょっと二人きりにした方が面白いんじゃないかって言うから。そんなに恐い顔しないでよ!」
ケラケラと笑う彼女からは、依然として悪気など感じられない。
私は那月にもう少し苦情を言いたかったのだが、それはあいにく、始業のチャイムによって遮られてしまった。
「昼休みに詳しく聞くからー!」
そう言い残すと、彼女は楽しそうに自分の席へと戻って行った。