荒々しく飛沫(しぶき)を上げる波打ち際に、ゆっくり近づく。

向こうの方で談笑していた男の子達が、しきりにこちらを気にしだす。


「そんな事、しないよ」

誰にも届かないボリュームで、私は小さく呟いてみた。
寄せては返す白波が、漂流したものたちを海へ誘う。海で生まれたもの達が、また海へ還って行く。

あの日此処に佇んでいた貴方は、一体何を考えていたのだろう。
胸の高鳴りを感じながら貴方の背中を眺めていた、遠い夏の日。


高校一年生の夏。

世界は急に輝きだした。

あの日々に"初恋"と名前をつけたのは、それからずっと後になってからの事だった。
あの日々に名前をつけるまでには、随分と長い時間が必要だったから。

手のひらをゆっくりとほどく。
ピンク色の貝殻は、ただそこで静かに眠っている。