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「おーい、誰か居るけど、どうする」

「別にいいだろ!居ても」

わいわいと堤防を登ってくる男の子達の声で、私は我にかえった。
彼らはこちらを気にかける様子を見せながら、次々と階段を駆け降りて来る。

いつの間にか夕日は地平線に殆ど隠れて、オレンジを追い出した紫が空を支配し始めていた。

そうだった。
此処はもう、私たちだけの秘密の場所ではないのだ。

目の前で傾いている"花火禁止"の看板が、私を完全に呼び戻す。
上着のポケットからスマートフォンを取り出すと、那月と別れてから既に一時間が経っていた。

デニムパンツのお尻を払い、凝り固まった体を捻る。静寂の中に強さを見せ始めた波のうねりと、男の子達の威勢のいい声が響き渡る。

私は鞄のポケットに手を捻じ込んで、思い出の欠片を取り出した。
握りしめるとそれは固く、ひんやりと冷たかった。