那月は涙を拭いながら何度も頷いた。久しぶりに抱きしめた彼女はあの頃とは違った、柔らかな香りがした。

しばらくして落ち着きを取り戻した彼女に、私は改めて伝えた。
何年も伝える事が出来なかった、感謝の気持ちを。

「那月、ありがとう。泰輝と出会わせてくれて。それと……ずっと私の側に居てくれて、ありがとう」

「当たり前でしょ、親友だもん。私だって、いつも柚歌に助けられてたよ。秀くんと離れて寂しかった時とか、浮気された時……あと、振られた時もね!」

那月はアイスティーを飲み干してから、大きな目を見開いて、得意げに笑った。


「そんな事もあったよね……あっ!そういえば。那月知ってる?秀くん、結婚したんだって」

「えっ?秀くんって、あの秀くんが!?うそっ!」

「本当だよ、本人がそう言ってたもん」

「柚歌、秀くんに会ったの?」

「うん。去年泰輝の七回忌の事で、ちょっとだけね」

私はあの夜の秀くんの様子を、那月にほとんど全て話した。
那月はちょっと複雑そうな顔でそれを聞いた後、すぐに笑顔を浮かべて、かつての恋人の幸せを喜んだ。
あの夜、秀くんが全く同じ表情を浮かべていた事だけは、彼女には言わないでおいた。

過ぎ去った日々が残していった、幾つもの痛み。
もう二度と取りに帰る事の出来ない、私たちの青い抜け殻。

私たちは今、長い時間をかけて、ようやくそれを笑い合えるようになった。