大人げない攻防の途切れ目に、空港のアナウンスが折り目正しく響いた。

「ほらもう時間だろ、そろそろ行けよ」

健ちゃんがスーツケースを差し出して、私の手に握らせる。

「うん。健ちゃん、元気でね!何かあったら連絡して」

「お前じゃ何の助けにもなんねぇけど、ありがとな。柚歌も困ったら、いつでも連絡してこいよ」

「わかった、ありがとう。それじゃ、私行くね!」

「おう、頑張れよ」

涙なんて見せてしまったらきっと笑われてしまうから、私は慌てて健ちゃんに背を向けた。
いくつになってもやっぱりサヨナラは苦手だ。

「柚歌!」

その時健ちゃんが私を呼んだ。驚いて振り返ると、健ちゃんはいつもの悪戯っぽい笑顔で言った。

「もう帰ってくるなよ!」

素直じゃない健ちゃんの精一杯の優しさに手を振って、私は搭乗口へと急いだ。