「本当にもう忘れ物ねぇか?」

健ちゃんが今日そのセリフを口にしたのは、もう三回目だ。

「無いってば」

「まぁどのみち今更は、取りに帰れねぇけどな」

「荷物は先に送っちゃったし、部屋は空っぽ!鍵だってもう返したよ」

「分かってるけど、柚歌ってたまに抜けてるからな。パスポートもったか?」

「何で国内なのにパスポートがいるの?ねぇ、馬鹿にしてるでしょ!」

「はは、その調子なら大丈夫そうだな」

私が横目で睨んで見せると、健ちゃんはニヤリと笑った。

「健ちゃんこそ大丈夫?私が居なくなって寂しいんじゃない?サキさんにはあっけなく振られちゃったし……」


"彼氏と結婚する事になったから"
そう言って、健ちゃんがサキさんにばっさり切り捨てられたのは、つい先月の事だ。

「お前ってやつは……最後に傷を抉っていくんじゃねーよ。こうして親切に見送りに来てやったのに」

「それは感謝してるってば、ありがとう♪」

「ほんとかよ。まったく」

泰輝の七回忌から半年。
健ちゃんと私は、空港のロビーにいた。
私は約五年勤めた会社を退職し、四月からは心機一転、新しい職場で働く事を決めた。