「まぁ、一番喜んでるのは……こいつだろうな」

慎くんは墓碑に刻まれた名前をなぞった。
時の流れに揉まれたせいか、あの日の残酷さはすっかり無くなったように見える。
懐かしくて愛しいその文字に、私も指先でそっと触れてみた。
先程たっぷりと掛けたはずの水は、もうすでに乾き始めている。

「私……ずっと来られなくてごめんなさい」

「いいんだよそんな事は。秀明から話は聞いたから」

そう言って優しく笑った慎くんの中に泰輝の面影を見てしまったのは、随分と短くなった髪のせいだろうか。

「俺も分かるから。柚歌ちゃんの気持ち」

「えっ?」

慎くんは隣にドカッと腰を下ろしてから、眩しそうに空を見上げた。

「……俺なんだ。泰輝にバイクの免許取るの勧めたの」

そう絞り出した時の苦しげな表情を見た瞬間、彼もまた長い間自分を責め続けていた事を、初めて知った。

「俺、昔バイクで散々親に迷惑かけたのに、泰輝があんな事になっちまってさ。口に出すのも恐ろしくて、しばらく誰にも言えなかった。親父にもお袋にもリナにも……柚歌ちゃんにもな。だけど心の中では俺のせいだって思ってたし、ずっと後悔してた」

「そんな事……あれは事故だったから……」