青々とした広大な海を見下ろす小高い丘の上に、その霊園はひっそり佇んでいた。
墓前に手を合わせ目を閉じると、波音と潮風、そして強い夏の匂いが混ざり合う気配が、手にとるように感じられる。
墓地というにはあまりに気持ちの良すぎるこの場所で、泰輝はきっと安らかに眠っている事だろう。

「なんか悪かったね。スパイを送り込むような事して」

顔を上げた直後、慎くんが言ったその言葉の意味が、私には理解できなかった。しばらく首を傾げていたら慎くんが「秀明」と呟いたから、私はそれをようやく理解して首を横に振った。

「だけど親父もお袋もリナも、柚歌ちゃんが来てくれて喜んでたよ。本当にありがとな」

「私も皆が元気そうで安心しました。(しょう)くんにも会えて良かった」

数年前に斎藤家の一員となったリナちゃんは黒髪にナチュラルメイクを施し、あの頃とは別人のようになっていたけれど、その美しさは今も健在だった。
そして"照"と名付けられた慎くんとリナちゃんの宝物は、その名の通り、一家を明るく照らす太陽のような一歳の男の子。
時を経て斎藤家に再び穏やかな時間が流れ始めた事を知り、私は心底ほっとしていた。