蜘蛛のピアス
四人で撮ったプリクラ
ピンク色の貝殻
そして小さな魚のぶら下がった携帯電話。

そのどれもが、幻のようなあの日々を、確かに証明していた。
小さな長方形に閉じ込められた私たちは何も知らない無邪気な顔で笑い、ピンク色の貝殻は少しも朽ちる事なく艶めいている。唯一随分と変わって見えたのは蜘蛛のピアスで、誰からも褒められなかったその訳が長年の時を経てようやく理解できた。

びくともしない携帯電話に息を吹きこもうと、私は充電器を探した。部屋のあちこちをひっくり返していたらノックの音がして、母が入って来た。

「何か探してるの?」

「高校生の時に使ってたケータイの充電器。何処かにあるはずなんだけど」

「私の古いのがあるかもしれないわ。探してみる?」

「……ううん。やっぱり、今は大丈夫」

私は何故だか急に怖くなって、首を横に振った。
電源を入れてしまったら、もう二度とこちらの世界へ戻ってこられなくなるような気がしたのだ。

心配そうな表情を浮かべる母にもう一度だけ首を横に振って、私はクッキー缶の中にあった蜘蛛のピアスを手のひらに乗せて見せた。