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「柚歌、よく帰ってきたな。おかえり」 

「お迎えありがとうね、お父さん」

空港まで車で迎えにきてくれた父は、二年前に長かった単身赴任をようやく終え、私と入れ替わるように小さな港町に戻った。

「この辺も随分変わっただろう?」

「うん。マンション、凄く増えたね」

「駅前の方なんて、すっかり変わったよ。シャッター街になってた商店街が綺麗になくなって、新しい商業施設が建ったり。そうだ、うちの近所にも小さなスーパーが出来たんだぞ」

車窓に流れていく町並みは、確かに所々変化しているようだった。けれど窓の隙間から入ってくる風の匂いは、この町を出たあの日のままだ。

家に着くまでの間、父も私もお互いに気を使い、必要以上に多くの言葉を発していた。離れて暮らした時間があまりに長かったせいで、父娘二人きりの状況には慣れていないのだ。