「テストはどうだったの?」

食卓につくなり、母はいきなり核心に触れた。「あんまりかな」とお茶を濁すと、母は手にしたばかりの箸を止め、露骨に嫌な顔をした。

「あんまりって……ちゃんと勉強したの?高校は中学とは違うのよ?」

あぁ、また始まった。

喉まで出かかった言葉を味噌汁で流し込みながら、私は「うん」とだけ返事をした。こういう時は下手に刺激しないよう、必要最低限の言葉だけを返すのが最善の策なのだ。

「今日はテストの後どこに行ってたの?」

「どうして?」

「母親だから知る権利があるもの」

お得意の台詞を口にすると、母はグラスいっぱいのミネラルウォーターを傾けながら眉をつりあげた。



一人娘を心配する母の気持ちも決して分からない訳ではない。
けれど私と楽しくお喋りしたくて聞いている訳ではない事を"権利"という言葉がはっきり物語っていた。
兎にも角にも私の事をなんでも把握していないと気が済まない、それが母の性分だ。



「……友達の家行ってた」

いつからか、私は訳もなく母に嘘をつくようになっていた。これまで幾つくらい嘘をついたのか、もう自分でも分からない。


この場から一刻も早く脱出しようと思い立ち、黙々とおかずを制覇した。こんな状況は慣れっことはいえ、小言を言われながら食べるご飯は、まるで砂でも噛んでいるみたいだ。