私たちの不格好な過去は遠ざかるほど美しく、眩しく、輝いて見えた。

「もし泰輝が居たら、あいつは柚歌ちゃんの事、今もずっと大事にしてたんじゃないかな。俺は二人の結婚式で那月と再会して、ちょっと気まずい思いしたりしてさ」

秀くんがすっかり赤くなった顔でそう言った時、私は健ちゃんとの会話をふと思い出した。

「どうかな。私たちだって、案外つまらない事で別れてたのかもしれないよ」 

今や過去の幼い愛を証明出来るものは何も無く、唯一残っているのは、日ごとに不確かになっていく自らの記憶だけだ。

「俺、大学に進学する前に、泰輝と二人で話した事があったんだけどさ」

「うん?」

「遠距離恋愛って上手くいくのかなって。俺はガキだったから、浮気しちゃうかもしれないよなーなんて言ったりしてさ、自分の事しか考えてなかったんだよな。実際浮気して那月と別れる事になったし」

「本当に……あの時は、なんか私までショックだったんだからね!」

私がいさめると、秀くんはばつが悪そうに苦笑いを浮かべて「ごめん」と呟き、お冷やを少しだけ口に含んだ。

「だけど泰輝はさ、ずっと柚歌ちゃんの事ばっかり心配してたよ。俺が居なくなったらまた自分を傷つけないかとか、側にいてあげられなくて寂しい思いさせるんじゃないかとか」