「そっか。楽しかったよなーあの頃。しょっちゅう駅前のファミレスで集まってさ」

秀くんは私の言葉を、肯定も否定もしなかった。

「秀くんは、いつもメロンソーダばっかり飲んでたよね」

「うん。今でもメロンソーダ好きなんだ、ビールの次に。俺、全然成長してないからな」

「確かに、中身はあんまり変わってないみたいだね」

「あはは、よく言われるよ」

私たちはそれからしばらく、何年も蓋をしたままだった懐かしい昔話に花を咲かせた。

「そういえば那月は……元気にしてる?」

会話の途切れ目。わずかな沈黙の後、秀くんは少し言い淀みながら思い出したようにそう尋ねた。けれど私には、それが今日此処に来る前から用意されていた質問である事がすぐに分かった。
那月も秀くんも昔から随分演技が下手だった事を思い出し、何故だか少しだけ嬉しくなった。

那月は相変わらずな事。
彼女も去年地元で結婚し、旦那さんと二人仲良く暮らしている事。
彼女がこちらに会いにきてくれる形で、私たちは今も年に一、二回は会っている事を伝えると、張りつめていた秀くんの表情は穏やかに解けた。
そして彼は、ちょっぴり切なさを滲ませながら言った。

「そっか……良かった。実はずっと気になってたんだ。あの時は俺もまだガキだったから、一方的な別れ方しちゃったし……悪い事したなって思ってたから」

「大丈夫、那月は幸せそうにしてるよ。だから秀くんも、幸せになってね」

私は昨年末に那月に会った時、彼女と秀くんの話をした事を思い出した。そして今度彼女に会った時には、今日の話をしようと密かに思った。