「私は何とかやってるけど……もちろん、泰輝の事忘れた日は一日も無いよ。だけど未だに踏ん切りがつかないって言うか……実はまだ、お墓参りにも一度も行けてないんだよね」

「柚歌ちゃんの事だから、多分そんな所だろうなって思ってた。慎さんも心配してたよ。実家には帰ってるの?」

「ううん。こっちに来てからは一度も。お父さんとお母さんには、こっちで年に二回くらいは会ってるんだけどね」 

「そっか」

秀くんはしばらく黙り込んでいた。
それは心地よい沈黙とは言い難く、私は気まずさを振り払う為にお通しに手をつけて、味付けを褒めてみたりした。
秀くんは刺身の盛り合わせが運ばれてきたタイミングで二杯目のビールを注文すると、再び口を開いた。

「慎さんさ、柚歌ちゃんがもしまだ泰輝の事思ってるなら、七回忌に来て欲しいみたいだったよ。なんでもどうしても会いたい理由があるとかで……それで俺がこうして柚歌ちゃんを呼び出した訳なんだけど」

「なるほど、そういう訳ね。でも私三回忌にも行かなかったし、それから慎くんとは連絡もとってないんだよ。"どうしても"なんて、何だろう」

慎くんに会ったのは泰輝のお葬式の日が最後だ。それが何故今更会いたいのか、私には想像もつかなかった。