私は健ちゃんの弱みを握っている。
健ちゃんも私の弱さを知っている。
私たちの関係は、見かけよりずっとシンプルだ。

私たちはしばらく黙ったまま、狭いベランダの隅でタバコをふかしていた。立ち昇る二本の煙は勢いよく走り去る貨物列車の音に紛れ、夜の静寂の中にゆっくりと溶けていく。

「だけどさ」

健ちゃんは突然呟いた。

「うん？」

「もし仮に俺がサキさんが付き合えたとしても、上手くいくとは限らないよな。それこそ便座がどうとか、つまんない事で喧嘩したり、サキさんが彼氏と上手くいってないとか言って他の男誘惑するかもしれないだろ？」

「それは間違い無いね」

ケラケラと笑いながら何度も頷いていたら、健ちゃんは眉をしかめながらこちらを向いた。

「柚歌と泰輝くんだっておんなじだぞ。泰輝くんの浮気で、今頃呆気なく別れてたかも知れないし」

「泰輝は浮気なんてする人じゃないよ。健ちゃんと一緒にしないでよ」　

私が健ちゃんを睨みつけると、彼は唇の端を片方だけ引き上げてから続けた。