「ねぇ。火、頂戴」

「ん」

健ちゃんは咥えていたタバコを、私のそれに近づけた。
湿気を含んだ都会の空気とホワイトムスク、メンソールの涼しさが私の中に広がっていく。

墨色の空には星の一つさえ見当たらず、遠くに見えるビルの群れはその明るさを競うように、いつまでも明かりを灯し続けている。

「健ちゃん?」

「ん?」

「もしも健ちゃんが私を好きでさ、私も健ちゃんを好きだったら、ずっとこうやって仲良く暮らしていけるのかな?」

健ちゃんは呆れたような目で私を見た後、フッと煙を吐き出した。

「馬鹿だなお前、それはそれで上手くいったり、いかなかったり色々あるだろ。しょーもない事で喧嘩して、三か月で破局がいいところだな」

「確かにね。健ちゃんが便座を下げないとかどうとかで」

「俺ん家なんだから別にいいだろ」

「私の家でもたまにそのままだよ」

「面倒くせー。こりゃ三日で別れるな」

「サキさんだって、便座は下げて欲しいと思うけど」

「それを言われたらもう、俺は何も言えねぇよ」