別れの時、次々と手向けられる花に埋もれた泰輝は、まるで人形のようだった。
誰かが私の背後で「安らかな顔だ」と呟いて、大人たちの何人かがそれに賛同した。
血の気のない泰輝の寝顔があの夜と全く違っている事は、私ひとりだけが知っていた。

泰輝の両親の悲痛な泣き声
慎くんの行き場のない怒り
弱々しく泣き崩れる秀くん
病み上がりの身体で自分を責め続けていた那月

私は小さな斎場にひしめき合う人々を誰ひとりとして救えないまま、旅立つ泰輝に世界一悲しい誓いのキスをした。

火葬場に向かうマイクロバスに乗り込むと、別れの音は程なくして、けたたましくそこに響いた。
私が最後に見たのは、窓の外で崩れ落ちるヒロさんと、真っ赤な目をして彼を支えるユキさんの姿だった。

燃えるような暑さの昼下がり、泰輝は砂浜に流れ着いたサンゴのようなちっぽけなカケラだけを残して、私の前からあっけなく消えた。それと同じくして、引き出しの中の小さなオーロラはすっかりその魔力を失った。

あの夏は私たちの心に、大きな傷痕を残したまま過ぎ去った。
私の心は泰輝と共に、あの日々に取り残されたままだった。
小さな港町は傷口に塩を塗るばかりで、私のそれは醜く広がったまま、いつまで経っても塞がる事はなかった。