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皮肉な程の晴天の下、私は父と母に支えられながら、どうにかそこを訪れた。

"斎藤泰輝 儀 式場"

入口に掲げられたその文字は、今まで目にした物の中で、一番残酷な形をしていた。

花々に囲まれた四角いフレームの中、泰輝はたった一人、なんとも場違いな満面の笑みを浮かべている。
その隣にいたはずの私はまるで初めから存在していなかった物のように綺麗に切り取られ、私たちは写真の中でさえも引き離されていた。


斎場の外で突然響いた慎くんの怒号。
それを必死に止めるリナちゃんと慎くんの友人たち。
そしてアスファルトの上に土下座したまま、いつまでも顔を上げない二人の中年男性。
慌てて外に出て行く泰輝の両親。

開式直前まで続いていたその騒ぎを、私は泰輝の側でただただ傍観していた。

知っている人、知らない人、居合わせた人々にどんな言葉をかけられても、私の心は空っぽのままだった。

父と母の間で訳も分からない長い呪文をいつまでも聞き、真っ黒い群衆のすすり泣きに埋もれながら同じように手を合わせた。けれど私は冥福なんて少しだって祈る事は出来ず、いつまでも泰輝が帰ってくる事だけを願っていた。