いつも羨ましく思っていた長い睫毛
惜しみない愛をくれた唇
真っ黒に焼けた筋肉質な腕
私の頭をくしゃくしゃ撫で回す大きな手
時々見せる真剣な横顔

愛しい人は目の前にいるのに、その全てはもう、触れられない程遥か遠く感じた。

「泰輝、ずっと一緒にいてくれるんじゃ無かったの?」

「誕生日お祝いしてくれるんじゃ無かったの?」

「今年も花火一緒に見るんじゃないの?」

「泰輝……」

「もう泣かせないって言ったのに。嘘つき」

「起きてよ。お願いだから」

「泰輝……ねぇ、愛してるよ?世界で一番、愛してる」

何を言ってみても、どんなにキスしても、ただ虚しさが増すばかりだった。
マリンノートは、もう香らなかった。
いつまでも部屋に漂っていたのは、線香の香りと一筋の煙だけだ。