その後どうやって病院を出たのかは、よく覚えていない。気づいた時には、私は父の運転する車の助手席に座っていた。
後部座席で、秀くんは何度もごめんと繰り返していた。それが泰輝に向けられた言葉なのか、私に向けられた言葉なのか、はたまた別の誰かなのか。分からなかったから、返事はしなかった。
その夜遅く、私は母と共に泰輝の家を訪ねた。
玄関まで線香の香りが漂ってきた時も、まだ狐につままれたような気分でいた。
けれど眠っている泰輝を目の前にして、母が嗚咽を漏らしながら手を合わせた瞬間、私たちはもう二度と昨日に戻れない事をようやく思い知った。
「柚歌ちゃん、しばらく泰輝の側にいてあげてくれる?二人で過ごせる時間は、もうあまりないと思うから……」
泰輝のお母さんの言葉は優しくも痛烈だった。
泰輝と私は、静まり返った仏間に二人きりになった。
畳の上に敷かれた布団の上で眠り続ける泰輝は、既にその温度をすっかり失っていた。ゴツゴツとした大きな手は胸の上で不自然に組まれ、私の手を握ってくれそうもない。
後部座席で、秀くんは何度もごめんと繰り返していた。それが泰輝に向けられた言葉なのか、私に向けられた言葉なのか、はたまた別の誰かなのか。分からなかったから、返事はしなかった。
その夜遅く、私は母と共に泰輝の家を訪ねた。
玄関まで線香の香りが漂ってきた時も、まだ狐につままれたような気分でいた。
けれど眠っている泰輝を目の前にして、母が嗚咽を漏らしながら手を合わせた瞬間、私たちはもう二度と昨日に戻れない事をようやく思い知った。
「柚歌ちゃん、しばらく泰輝の側にいてあげてくれる?二人で過ごせる時間は、もうあまりないと思うから……」
泰輝のお母さんの言葉は優しくも痛烈だった。
泰輝と私は、静まり返った仏間に二人きりになった。
畳の上に敷かれた布団の上で眠り続ける泰輝は、既にその温度をすっかり失っていた。ゴツゴツとした大きな手は胸の上で不自然に組まれ、私の手を握ってくれそうもない。