程なくして駆け込んできた父は

「泰輝くんは絶対に大丈夫だ」

根拠もないままそう言って、場違いな程に大きな声で私と秀くんを励ました。
私たちは小さな長椅子に三人で腰掛けながら、何度も何度も大丈夫、それだけを代わる代わる口にした。無力な私たちに出来る事はそれくらいしか無かったのだ。
時計のないその場所で、私たちはまるで永遠のように感じられる長い時間を過ごした。

どれくらいそうしていただろうか。
閉ざされていた扉が勢いよく開いて、飛び出して来たのは慎くんだった。

「慎くん!」

「慎さん!泰輝は!?」

慎くんは秀くんの呼びかけに答える事なく、父に一度だけ会釈すると、私の前にゆっくりとしゃがみ込んだ。

「……本当は家族だけって言われたんだけどさ、柚歌ちゃんは家族みたいなもんだから。泰輝に会ってやって」

聞きたい事は山ほどあった。けれど慎くんの目がそれを許さなかったから、私は慎くんの背中に黙って続くしかなかった。溢れそうになる涙を必死で堪えた。
もしそれが溢れてしまったら、もう二度と泰輝には会えないような気がした。

まるで無機質だけが存在しているかのような、まっすぐで冷たい廊下を進んだ。私はどこからか聞こえてくる電子化された生きている証が、泰輝のものである事をだけを願っていた。