病院の救急入口の前で、私は父の車を飛び降りた。
院内の殺風景な廊下には長椅子がひとつだけ置かれ、その上で秀くんが一人ぽつんとうなだれている。

「秀くん!」

「柚歌ちゃん!……ごめん、びっくりしたよね」

「何があったの!?」

「いや。実は俺も、見てた訳じゃないんだ」

秀くんはそう前置きしてから、弱々しい声で事の一部始終を語りだした。

「今日、最初はレンタカー二台で行こうと思ってたんだ。だけど那月と柚歌ちゃんが来れなくなったから、泰輝がバイクで行くって言いだしたんだ。そうすれば車一台で済むからって。
それで帰り道、泰輝は俺たちのちょっと前をバイクで走ってたんだけど……見てた人によると対向車のトラックがカーブでセンターラインはみ出して来て、泰輝と正面衝突したって」

「泰輝は!?大丈夫なの!?」

「俺、救急車に乗って一緒に病院まで来たんだ。あいつ、最初は会話してたんだけど……途中でだんだん意識が無くなって……俺何にもできなくて……ごめん」

「嘘……」

足元にふらつきを覚えて、私は秀くんの隣になんとか腰を下ろした。
何かの間違いであって欲しい。
そう願って、信じもしない神に祈った。
けれど隣で小刻みに震える秀くんの姿は、これは現実なのだと言う事を痛いくらいに物語っている。