「ごめんなさい……」

「いいっていいって!」

「でも……」

駅までの道中その会話を何度も繰り返したのは本当に申し訳なく思ったのと、男の子と二人きりになるなんてほとんど初めてで、何を話せばいいのか分からなかったからだ。
行き慣れた道のりは一人の方が余程気楽だったのに、秀くんも那月もまったく余計な事をしてくれる。

「本当に気にしなくていいから!別に俺は嫌じゃないし……って、柚歌ちゃんが嫌だった?」

「いえ!そんな事は、無いです!全然!」

「それなら良いんだけど。あ、ところで、俺には敬語使わなくてもいいよ?」

「はい!……あっ、うん!?」

私がおかしな返事をしてしまったせいで、泰輝くんは少し驚いたような顔をしてからフッと笑った。

「柚歌ちゃんってさ、案外面白いね。最初はいかついピアス沢山してるから、正直どんな子かと思ったけど」 

そう言った泰輝くんと目があった瞬間、私は自分の顔が真っ赤になっていくのを感じてとっさに俯いた。彼の焦げ茶色の瞳はまるでビー玉のように綺麗で、直視すれば吸い込まれてしまいそうなほどに澄んでいた。
’’いかつい"とからかわれた耳たぶが、柄に似合わず焼けるように熱い。

その後は世間話と言われるようななんでもない話が続いて、私はただただ相槌を打った。
十分(じゅっぷん)もかからないはずの道のりが今日は永遠に感じられ、やっとの思いで駅まで辿り着いた頃にはもうすっかりクタクタになっていた。