「俺、ピンクのがいいな」

「えっ?」

「ピンクのがなんとなく柚歌っぽいから。柚歌だと思って可愛がる」

泰輝は悪戯に笑って、ピンク色の魚を私の手から奪い取った。

「じゃあ……こっちの水色は泰輝?泰輝にしては可愛すぎる気もするけど」

「ひどい事言うよ」

「だって本当の事だもん」

私たちは子どものようにはしゃぎあって、お揃いの携帯電話に小さな魚を一匹ずつぶら下げた。


 

昼下がり、新幹線のプラットホーム。
私たちは人混みの中、笑顔で手を振り合った。楽しい時間というのはどうして例外なく、あっという間に過ぎてしまうのだろうか。

「柚歌、気をつけて帰るんだぞ」

「うん、来月待ってるからね」

「うん。また来月!」

鳴り響く出発音が私たちを隔てた後も、ポケットから飛び出した小さな水色の魚は、そこでゆらゆらと元気に泳ぎ回っていた。

夕暮れと共に帰宅した私は、拍子抜けする程明るい母の笑顔と温かい手料理に出迎えられ、一泊二日の大冒険は無事幕を閉じたのだった。