「柚歌大丈夫?やめようか?」

「ううん、大丈夫」

そう言ったのも束の間、泰輝がワンピースの裾に手を掛けると、私の手は反射的にそれを阻んだ。

「恐いならやめよう。俺の為に無理しなくていいよ」

「そうじゃないの」

「……うん?」

小さなシングルベッドの上で、私の心と身体は散り散りになっていた。
泰輝は柔らかな困惑を浮かべたまま、私の着地をじっと見守っている。

「私ね、恐くないよ。泰輝が好きだから。だけど……だから……好きだから、泰輝に嫌われるのが恐いの」

秒針はカチカチと音を立て、容赦なく私を置き去りにした。大人になりきれない私の頬を、泰輝の大きな手が優しく包み込む。彼のその手はいつだって、私のあらゆる感情を溶かして行く。

「柚歌は俺の事、そういう奴だって思ってる?」

「そういう訳じゃないよ」

「だろ?じゃあ大丈夫。俺はどんな柚歌でも大好きだから。柚歌、俺の事信じる?」

「うん……信じるよ」

泰輝の手によって、私のひとつひとつが暴かれていった。カーテンの隙間からかすかに漏れる街灯の青白い光が、私たちの秘密を照らし出す。

「綺麗だね、柚歌」

泰輝がそう呟いた時、私は生まれて初めて、自分を心から愛しいと感じた。
溢れそうになる涙は、必死で堪えた。