「泰輝、生きてるね」

「ふふ……生きてるよ」

「ドキドキしてる」

「俺だってさ、実は結構緊張してるんだよ」

「どうして?」

「柚歌がこんなに近くに居るから」

泰輝は私の唇をゆっくりと捉えた。一度離された唇が再び重なり合って、私たちを加速させる。次第にあらわになり始めた彼の葛藤が、私の背中をそっとなぞった。

「ごめん……」

「……ううん」

かろうじて残っていた理性が、私たちを引き離す。

子どもと大人の真ん中で、私の心は揺れていた。
いつからか私は、子どもと大人を使い分けながら都合良く生きていた。
まだ子どもで居たいのに、早く大人になりたかった。
本当は誰よりも臆病な癖に、幼い好奇心は"好き"のその先にある世界を知りたがった。

「私……泰輝ならいいよ」

「えっ?」

驚きと迷いに満ちた表情が、暗闇に浮かび上がる。

「泰輝の事好きだから……いいよ?」

「いや、でも……後悔しない?」

私がゆっくり頷くと、泰輝はその腕に再び私を招き入れた。
そして私たちの鼓動が激しく重なり合った時、生まれて初めて本能が揺れ動くのを感じた。

呼吸の仕方も分からないままに、唇は何度も重なり合う。泰輝が首筋にキスを落とした時、心とは裏腹に、私の身体はひどく強張っていた。