泰輝の冗談半分のその言葉を真に受けて、私はすっかりその気になっていた。
明日の事さえ分からない毎日の中で、急に希望を見つけたような、そんな気さえした。

「私、大学行けるように頑張って勉強するね!料理も、もっと上手くなるように練習する」

「それは嬉しいけど、柚歌の将来の事だからゆっくり考えてちゃんと決めなよ。柚歌がどこに行ったとしても俺の気持ちは変わらないから。まずはちゃんと高校卒業する事!」

「うん、分かった」

私の心はすでに決まっていた。小さな世界に生きていた私は、彼の側に居られる事こそが最大の幸せだと信じて疑わなかったのだ。

「明日も早いしそろそろ寝よっか」

「うん、私寝られるかな」

「修学旅行生じゃあるまいし……」

泰輝は呆れたように笑うとテレビを消して、部屋の照明を落とした。
途端に静まりかえった部屋の中、世界に二人だけが取り残されたような気になった。

「ほら、柚歌おいで」

力強い腕が暗がりの中で、私を優しく抱きしめる。耳元に押し当てられた鼓動の音は、思っていたよりずっとせわしなかった。