「柚歌、こっち向いてよ」

「恥ずかしいから嫌」

「せっかく久しぶりに会えたのに。ずっと柚歌の後頭部だけ見てるなんて、寂しいよ俺」

もっともらしい事を言われ、それもそうだと妙に納得してしまった。
観念した私は、恐る恐る寝返りを打った。

「別に取って食べたりしないから安心して」

「……分かってるよ!そんなの」

泰輝はいつだって、いとも簡単に私の心を読んでしまう。
彼の匂いが染み付いた小さな枕の隅に照れ臭さを埋めながら、いつまで経っても彼には到底敵わない事を確信した。


「ずっとこうして居られたら良いのにな」

泰輝はそう言って、何度も私の髪を撫でた。温かな手のひらに溶かされた緊張感が、安らぎへと変わり始める。

「ここで泰輝と一緒に暮らせたら良いのに」

浅はかな願いは、静寂の中に虚しく消えていく。
明日になれば私は、何事も無かったように元の場所へと戻らなくてはならない。

「柚歌も卒業したら、こっちに来たら?そうしたらずっと一緒に居られるし」

「本当に?」

「こっちなら大学沢山あるし、柚歌に合う学校もあるかもよ。まぁ、それは柚歌が決める事だけどね」