「お風呂ありがとう」

下ろした前髪で顔を隠しながら、やや俯きがちに声を掛けた。
泰輝は横になったまま、その隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
私はそこに足を踏み入れるべきか否かしばし悩んでから、ベッドの淵にほんの少しだけ腰を下ろす事にした。

「すっぴんだと、案外子どもっぽいね」

「それは言わないで」

「なんで?すげー可愛いよ?」

「馬鹿……」

泰輝は私の前髪を手でかき分けてニヤニヤしている。

「そんな隅に居ないでもっとこっち来たら?」

「でも……」

「大丈夫。自分の家だと思ってくつろいだらいいよ」

逃げ場を失って、彼の横に寝そべった。
当然の事ながら緊張感だけが増して、少しも気は休まらない。

行き場のない気まずさを抱えながら、泰輝に背を向けてさほど面白くもないテレビ番組をただひたすら見ていた。
けれど背中に伝わってくる体温と微かに漂う慣れない石鹸の匂いを無視する事は出来ず、私の胸はいつまでも高鳴り続けている。