「結婚って、気が早いよ泰輝」

「柚歌は俺の奥さんになりたくない?」

「それは……なりたいけど」

「だろ?」

なりたくない理由なんて、ひとつだって見つからないのに。
やっぱり私は、ちっとも可愛げのない反応しか出来なかった。

泰輝はクスクスと笑って私の頭を撫でると、赤面した私を残してバスルームへ消えた。
がらんとした部屋の中に、テレビから流れてくるコマーシャルの軽快な音楽と、バスルームから漏れ始めた微かなシャワーの音が響く。

ふと時計に目をやると、いつもならとっくに家に帰っている時間だということに気がついて、なんだか急に落ち着かなくなった。
しばらくして戻ってきた泰輝は、私にもシャワーを勧めてくれた。
まだ湿度の残る無防備な姿に目のやり場を失った私は、二つ返事でバスルームに逃げ込んだ。

メイクを落としている最中、今まで一度もすっぴんを見せていない事に気づいたけれど、今更それをどうすることも出来ず、私は半ば諦めに近い気持ちで全てを洗い流した。

充満した湯気の中、バスタオルで身を包むと、ほのかな柔軟剤の香りが鼻をくすぐった。
手持ちの中で最も女の子らしいという理由で持参した、ワンピースタイプのパジャマを身に纏い部屋へ戻ると、泰輝はベッドで横になってテレビを見ていた。