「お腹空いたの?」

返事の代わりに、泰輝は後ろからすっぽりと私を包み込んだ。
驚いた私は、持っていた包丁を慌ててまな板の上に置いた。

「危ないよ泰輝。どうしたの?」

「ごめん。柚歌見てたら、こうしたくなった」

悪びれる様子もなく、泰輝は私の頬にそっとキスした。筋肉質な両腕がゆっくりと解かれる。

「もう少しで出来るから」

「何か手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。いいから向こうで待ってて」

「分かったよ」

泰輝を追い出す事に成功した私は、まだ甘い余韻の残るキッチンで夕飯の支度を急いだ。

泰輝はロールキャベツだけでなく、付け合わせのポテトサラダとブロッコリーまですっかり綺麗に平らげた。
好き嫌いの無い泰輝はいつもなんでも「美味い」と言って食べている。けれど愛しい人の満足そうな顔を見るのはやっぱり嬉しいもので、面倒な後片付けも、今日だけは苦にならなかった。

「柚歌と結婚したら、毎日幸せなんだろうな」

夕食後、身を寄せ合ってテレビを見ていた時、泰輝は胃のあたりを撫でながらぽつりと呟いた。