私はその言葉に甘えて、キッチンに立つ泰輝の後ろ姿を眺めていた。
ぎこちない包丁捌きにはヒヤヒヤしたけれど、普段は何でもこなしてしまう彼のそんな様子は、かえって新鮮で愛しくも思える。
悪戦苦闘の末にようやく出来上がった炒飯は想像よりずっと美味しくて、二人して驚いた。

ちょっぴり罪悪感の味がするゼリー菓子をデザートにお互いの近況を報告しあっているうち、あっという間に日が傾きかけたので、私たちは近所のスーパーに出かけ、束の間の新婚ごっこを楽しんだ。

「泰輝、夕飯なにが食べたい?」

「うーん。柚歌、ロールキャベツ作れる?」

「作った事ないけど……まぁ多分大丈夫でしょ♪」

すっかり日常に溶け込んだその場所で、私たちだけが非日常に浮かれていた。
あれもこれもと買っていたらレジ袋は思っていたよりずっと膨らんで、私たちはずっしりとした重さを半分ずつ分け合いながらアパートへと戻った。並木道一体に響き渡るセミたちの声さえも、今日はまるで陽気なBGMだ。

ロールキャベツをようやく鍋の中に落とした頃、泰輝は私が家から持ってきたクッキーをつまみながら、ふらふらとキッチンへやってきた。
手狭なキッチンは換気が追いつかず、トマトソースの甘酸っぱい香りは部屋いっぱいに広がっていた。