「那月ちゃんのご両親によろしく伝えてね、あんまり迷惑かけないのよ!」

「はーい!行ってきます!」

夏休み最初の土曜日。
私を見送る母の笑顔にひどく胸が痛んだ。
怪しまれないよう、リュックの中には最小限の荷物と貯めておいたお年玉、そして昨夜焼いたクッキーだけを詰めたのに、母が持たせてくれた手土産のゼリー菓子と罪悪感は、ずっしりとぶら下がった。

はやる気持ちと少しの不安を抱えながら、私は電車に飛び乗った。乗り換えの手順を書き記したメモ用紙を、ポケットから取り出して何度も確認する。
生まれて初めて一人で乗った新幹線の自由席には幸い空きがあり、私は窓際のシートに腰掛けた。流れ続ける見慣れない景色に、胸は苦しいくらいに高鳴っていた。

新幹線が定刻通り約束の駅に到着すると、ほっとしたのも束の間、あちらこちらからホームに吐き出される人の多さに驚いた。その熱気と目まぐるしさに目眩を覚えつつ、泰輝に言われていた通り、中央改札口の表示を探す。
ようやく改札を抜けると、今度は待ち合わせの人々が溢れんばかりに待ち構えていて、とうとうため息がこぼれた。
人混みの中、私たちはお揃いの携帯電話だけを頼りに、お互いの姿を探しあった。