「柚歌、大好きだよ」

「私も大好きだよ。行ってらっしゃい泰輝」

「おう、またね!」

私は一度も振り返る事なく、堤防沿いを足早に歩いた。走り去るバイクの微かなエンジン音が背中に響いた時、堪えていた涙は一気に溢れ出した。


桜の花びらが舞う四月、私たちはそれぞれの場所で、新たなスタートを切った。

「柚歌〜!今年も同じクラスになれて嬉しい♪」

「私もだよ那月!また一年間よろしくね」

「ねー見てみて!秀くんが送ってくれた入学式の写真。スーツ姿超かっこよくない?」

人懐っこい那月のお陰で、新しいクラスには割とすんなり溶け込むことが出来た。
去年より少し短くなったスカートと始まったばかりの遠距離恋愛。進級したとはいえ、変化といえばそれくらいのもので、平凡過ぎる高校生活はとうに新鮮味を欠いていた。

退屈な授業をやり過ごす毎日。
放課後の定番は、那月とファミレス。
話題は専ら、お互いの彼氏のキャンパスライフについて。

高校生の私たちにとっては、ちょっとした距離さえも大きな問題だった。
私たちは暇さえあれば「会いたい」と、呪文のようにぼやき合っていた。