「柚歌、写真撮ろう!」

泰輝の珍しい提案で、私たちは海を背に肩を並べて、目一杯の笑顔を作った。
今この瞬間に二人きりで閉じ込められてしまえばいいのに。そんな虚しい願いを潮風がさらって、あっという間に時間は過ぎた。


沈みかけた夕日が、私たちのしばしの別れをオレンジ色に染め上げる。バイクにまたがった泰輝はその笑顔にどこか切なさを浮かべて、何か言葉を探しているように見えた。

「俺は柚歌の後で行くよ。泣かれたら困るし!」

「泣かないよ!」

「それはそれでなんか寂しいけど。まぁ、すぐ帰ってくるから」

「うん、すぐ会えるよ」

精一杯の強がりと笑顔が、今の私に出来る唯一の餞だ。

「……うーん。でも、顔に寂しいって書いてあるんだよな~」

やっぱり泰輝には、誤魔化しが効かないみたいだ。
泰輝はバイクから降りてきて、私をすっぽりと包み込んだ。不意に香るマリンノートが私の決意を揺さぶる。

「私は大丈夫だから。ね?」

自分自身に言い聞かせるように、私はもう一度笑って見せた。泰輝は頷いて私の唇に一度だけキスを落とすと、バイクに再びまたがった。